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くゆる紫

·490·投稿 2026.04.25·更新 2026.04.25

ゆらりと、煙草から立ち上る煙を眺めていた。 伏せられた睫毛、気怠げに吐き出される紫煙。 睫毛、意外と長いな――。ぼんやりとそんなことを考えているうちに、気がつけば自然と手が伸びていた。 「なに?」 真っ直ぐに見つめてくる瞳は、深い静寂を湛えている。 伸ばした指先が、その頬を軽く撫でた。 「なんでもねぇ」 「なんだそれ」 再び煙草を咥え、目を細めてふっ、と軽く笑う。 幼い頃から変わらないその笑い方に、ほんの少しの懐かしさと、胸を締め付けるような苦しさが込み上げた。 変わらないモノがあまりにも少なすぎて、気がつけばほとんどをこの手から放していた。 大切なものはいつでも、指の隙間からこぼれ落ちる砂のように、呆気なく去っていく。 止める術すら持たず、ただ消えてゆくのを眺めることしかできなかった。

起き上がると、シーツが微かな音を立てて擦れる。 ヘッドボードから煙草を取り出し、口に含んだ。 「火、貸せ」 オレの声に振り向き、自分の吸っていた煙草の先を重ねてくる。赤い火が小さく灯り、チリチリと新しい葉を焦がしていった。 煙をゆっくりと肺に満たし、ゆっくりと吐き出す。 紫煙の向こう、黒い瞳と目が合った。


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